5周年を迎えての特別インタビュー

東京ガーデンテラス紀尾井 5周年テーマ「KIOI CONNECT」~「人々の繋がりの大切さ」をアートとともに~ アーティスト大巻伸嗣氏のインタビューから、これからの街とアートを考える

東京ガーデンテラス紀尾井町は、2021年7月27日に開業5周年を迎えました。2016年のオープンと共に、敷地内の随所に設置された8点のパブリックアートは、多彩なアーティストによって「紀尾井町の時と人と緑をつなぐ」というテーマのもとに制作されました。紀尾井町の散策に彩りを添え、今ではパブリックアートをめぐることも紀尾井町を訪れる人々の一つの楽しみとなっています。

ここでは、紀尾井町通りに面した「花の広場」で、人々の往来を眺めてきた《Echoes Infinity ~Immortal Flowers~》を制作した大巻伸嗣氏へのインタビューを通じて、東京ガーデンテラス紀尾井町の5年間の歩みを振り返り、街とアートの関係を改めて見つめてみたいと思います。そして、コロナ禍を乗り越え、私たちが取り組むべきこととは何かを考え、新たな未来へのメッセージを皆さまにお届けします。

東京ガーデンテラス紀尾井町「花の広場」 東京ガーデンテラス紀尾井町「花の広場」

彫刻は時の中で

東京ガーデンテラス紀尾井町(以下、TGT):5年前に制作されたご自身の彫刻を見て、いま改めてどのように感じるのでしょうか?

大巻:5年前に制作した彫刻に久々に会って、どこかよそよそしく感じたり、初々しくも感じたりして、自分ではないものになっている気がしています。ちょっと不思議な感覚です。私にとっては、ある時間と空間のなかで最大限に関係をもってつくった作品ですし、彫刻をつくる行為というのは、自分自身をつくっている、あるいは自分の分身だと言われることもあります。でも、(屋外の)彫刻は設置されるとそれ自体が独立して、独自の時間を歩み出しているものだと思うので、私の記憶と彼(彫刻)の記憶は一致しないんですよね。だからむしろ、どうやってこの5年間を過ごしてきたのか、西武プロパティーズ(東京ガーデンテラス紀尾井町)の皆さんに聞いてみたいです。

TGT:この5年間で、彫刻が置かれている広場は自然に「花の広場」と呼ばれるようになり、紀尾井町で働く人々や住まう人々にも、その名が定着しました。また、この広場では、地域の祭りやジャズライブ、タヒチアンダンスの会など、日本の伝統的なイベントから西欧のものまで様々なイベントを開催してきたのですが、それはまさに「花のもとに人が集まっている」と感じる光景です。また、紀尾井タワーのオフィスで働く人たちが「花の前ね」と待ち合わせの目印にしたり、お客さまや通りすがりの人に道を尋ねられる時には、「その大きな花のオブジェを左に曲がって」と答えることもよくあるんですよ。5年の歳月をかけてこの《Echoes Infinity ~Immortal Flowers~》が紀尾井町のシンボルになっているんだなぁ、と思う瞬間でもあります。

大巻:作品を制作すると決まった時にいただいたお題の一つが、「紀尾井町のランドマークになるもの」だったので、そのようなお話を聞けてうれしいです。私のエピソードとしては、ときどき高速道路を車で走っている時に、本当に思いがけずこの花の彫刻が眼下の視界にふと入ってくることがあるんです。すごくハッとさせられて、その瞬間が私にとってはすごく新鮮です。

TGT:多くの人がそのようにハッとする体験を《Echoes Infinity ~Immortal Flowers~》は持っているのではないかと思います。生命の躍動感や力強さを感じるからこそ、その一方で一瞬の儚さも感じて、日々のなかで見過ごされてしまうものや忘れてしまいがちなことを思い出させられるようです。

大巻:カラフルな花々を鏡面仕上げにしたことで、彫刻自体を反射し、周囲の風景を反射し、眺めているとだんだんとどこが本物の景色なのかわからなくなってしまうのも、この作品の面白さです。歴史や記憶というと、モノクロームやセピア色になってしまいがちですが、紀尾井町の歴史を含めて世界が変化していく色を彫刻のなかに取り込みながら、また反射して、“今”という時間をコネクトさせていきたいと考えました。

TGT:彫刻と風景、そして人々の見ている世界がつながったり、少し距離を持ったりしながらも、これからも少しずつ変化していくことを想像させます。

大巻:あらゆるものを“構造”としていくというのも、この作品のすごく大事なところです。例えば、人と人や、人と空間のつながり。そういういろいろな要素が構造の一つとして形を成す。どこか一つでも構造が抜けると倒れてしまうような、そんな彫刻です。人々が集まってくると、この鏡のような彫刻とその周囲の空間に、視覚的にも記憶としても蓄積されていって、作品に映り込みながら自分たち自身もその世界をつくっていくという関係が生まれてくる。この彫刻が記憶をつくっていると感じるんです。

山王祭 山王祭

「永遠の彫刻」とは

大巻:この彫刻のタイトルに「Immortal Flowers」とあるのは「永遠の花」という意味ですが、言い換えれば、この作品が永遠であることを願うということではなく、作品をつくっていく記憶と時間を永遠に継承するという意味が込められています。今は、コロナ禍で鬱々とした時間が続いていますが、そういった時間も含めて彫刻とともに永遠の時間をつくっていく。私の記憶、会社の記憶、ホテルの記憶……と、それぞれのなかに立ち上がる「永遠」というものに意識が生まれ、このアイコンとしての彫刻を見たときにまた意識を取り戻す。そうやって時間を飛び超えていくような彫刻ができればうれしいといつも思っています。

TGT:私たちもこの1年半、ニューノーマルとは何か、自分たちにできることは何か、地域の皆さんと共にどう乗り切っていくのかと、話し合いを重ねてきました。そのなかで、やはり人と人とのつながりを強く感じることが多かったことから、5周年のコンセプトを「KIOI CONNECT」としました。地域の皆さんの思いや願いも、この作品は映し出してくれているように感じます。

大巻:100年なのか1000年なのかわからないけれど、その時間を超えられたときに初めて、東京ガーデンテラス紀尾井町という場所を振り返って「こんなことをしたんだね」ということが起こってくるものではないでしょうか。でも大切なことは、自分たちの未来をつくっていこうとする意思を持つこと自体が変化や進化でもあるということ。それは人間として、生命体として、すごく大事なことだと思います。そういう意識を再生したり確認できるものとして、このような彫刻が世界のなかに存在していてもいいのではないでしょうか。

TGT:ええ、そうですね。5年前の開発時を振り返ると、東京ガーデンテラス紀尾井町から地域を「ひらかれた街」にしたいという思いがありました。伝統や歴史、文化がある街だからこそ格式が高いイメージもある土地だと思いますが、このオブジェが街の新たな表現をしてくれているのかなと感じます。

彫刻のこれから

TGT:《Echoes Infinity ~Immortal Flowers~》という作品を、こんなふうに見てもらいたいという思いはありますか?

大巻:彫刻のなかに自分の物語を強制しようとは思っていません。また、公共の場所、特に歴史のある紀尾井町のような場所ではこの土地自体に深い記憶があります。そのような要素に引っ張られすぎるとニュートラルな存在として関わり合えなくなってくるんです。歴史や物語を訴えるだけのものになってしまうのですね。ですからむしろ、彫刻のなかに場所的な要素を取り入れながらも、鏡のような空間のなかで内側と外側を練り上げていく、そんな形が可塑的に生まれてくるイメージです。彫刻が舞台または舞台装置として動き出すものであって、それをみなさんに自由に使ってもらいたいですね。

インタビュー中の様子 インタビュー中の様子

TGT:毎日出勤して見ていると、たしかに「今日も動いているな」と思います。少しずつ異なる位置から眺めていることもあると思いますし、その時々の気持ちを映してもいるのだ、と。そのように見る人の数だけ彫刻の異なる姿があるのだと感じます。

大巻:地面に花の影が映ったり、周りのいろいろなものが映し出されたり、太陽の動きに合わせて変化が生まれるので、さらに感じ方の幅も広がると思います。そこに、知らなかった世界とのつながりを意識してみると面白いですよ。一日部屋の中で太陽の日を見ずに過ごすことも多いと思いますが、太陽が動いているから光が入ってくるというような、当たり前でも忘れがちなことや、自分たちの生きている時間を意識すると新たな発見があるのではないでしょうか。

TGT:東京ガーデンテラス紀尾井町のなかで、街の営みを感じられる装置をどんどん考えていきたいです。彫刻は「動かないもの」と思いがちですが、大巻さんのお話を聞いてそうではないということが感じられました。

大巻:そうですね。ぜひ、この彫刻を“アクター”だと思ってもらいたいです。一例としてですが、記念日でもなんでもない普通の日にカラフルな照明を彫刻に当てて見せることをしてみてもいいんです。今までにないような非日常のライティングを試みて、彫刻の可能性や存在を探ったり見せたりすることで、パブリックアートの可能性を広げられると思います。新たに大掛かりな何かをしようとするのではなく、そこにある知らない世界を見つけてみようという試みがあってもいい。今まで当たり前だと思い込んでいたものを、一度崩してみて、見つかることがあるかもしれません。

TGT:最後に、2020年から続くコロナ禍が続き「withコロナ」を生きていくことになりますが、これからどんな未来になってほしいかなどメッセージをお願いしたいです。

大巻:こんな未来になってほしい、というのはすごく難しいですが、未来というのは、直感による発見の連続の先にあるものだと思う。それは、無呼吸ではなく、呼吸ができて酸素をたくさん取り込めるような開かれた意識がある日常の連続でもあります。今、マスクをしているという物理的な理由もありますが、それよりも「コロナ」という言葉自体が私たちの呼吸を浅くさせてしまっているような気がしますね。目に入ってくる光をも狭めているような。そのようにならざるを得ない意識が人々に芽生えている気配を感じているので、開けた日常がまたこの先にあるといいなと思っています。

大巻 伸嗣さんインタビュー当日の写真 大巻 伸嗣さんインタビュー当日の写真

大巻 伸嗣(おおまき しんじ)

1971年岐阜県生まれ。

影や闇といった身近であるが意識から外れてしまうもの、対立する価値観の間に広がる境界閾、刻々と変化する社会の中で失われてゆくマイノリティー等に焦点を当て、「存在」とは何かをテーマに制作活動を展開する。「空間」「時間」「重力」「記憶」をキーワードとして、多種多様な素材や手法を用いて、曖昧で捉えどころのない「存在」に迫るための身体的時空間の創出を試みる。主な作品として、『ECHO』シリーズ、『Liminal Air』、『Memorial Rebirth』、『Flotage』、『家』シリーズ、『Gravity and Grace』等がある。日本国内のみにとどまらず、世界中のギャラリー、美術館などで意欲的に作品を展開している。

近年の主な個展に、「存在のざわめき」関渡美術館(台北)、「YCC Temporary 大巻伸嗣」YCCヨコハマ創造都市センター、「Liminal Air Fluctuation - existence」Hermès セーヴル店(パリ)等がある。グループ展としては、「Now Is the Time: 2019 Wuzhen Contemporary Art Exhibition」烏鎮(中国)、「深みへ‐日本の美意識を求めて‐」ロスチャイルド館(パリ)、「Art Basel Hong Kong 2018」香港コンベンション・アンド・エキシビジョンセンター、「シンプルなかたち展:美はどこからくるのか」森美術館、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」など多数に参加。2016年には、”Louis Vuitton 2016-17 FW PARIS MEN'S COLLECTION”の舞台を制作・監修した。Morpheus hotel at City of Dreams(マカオ)、オランダフリースラン州IJLST、Ginza SIX、高松港など、世界各地でパブリックアートも手がけている。