紙漉きの手法をベースにしたインスタレーション作品が特長の柳井嗣雄氏による、『物質と生命の記憶』がテーマのアート展示をお楽しみいただきました。
今まで9つのシリーズ作品を作りました。その中に「樹木」シリーズと「根茎」シリーズがあります。今回の出品作は後者で、「樹木」が地上世界だとすると「根茎」は地下の世界。定住民と遊牧民、あるいは単純に見える世界と見えない世界と言ってもいいかも知れません。根茎は勝手に根を張り巡らして地下のネットワークを作ってゆく。そんな世界を可視化できないかと思っています。自律と自由の象徴として。私は和紙をメイン素材として40年近く制作しています。楮の栽培もしていて毎年冬場に刈り取り、皮から繊維を採取します。注意深く観察すると楮の根は地中深くにではなく、横に広がるように根を張っていくのです。そして春には切り株からはもちろんですが、思いがけない場所から新芽を出したりします。これはまさに根茎・Rhizomeの世界で見えないところで独自の社会的ネットワークを形成しているのだと思われます。この作品は主に杉皮繊維を使用していて網状に繋がっていく地下茎をイメージしたものです。そんな自律した生き方を頼もしく感じながら「根茎」シリーズを作っています。
柳井 嗣雄
