そもそもパブリックアートとは何でしょうか?

言葉の通りパブリックスペースに展示されたアートですが、ここでいうパブリックスペースとは幅広い意味で捉えられています。公園や広場、公開空地などの屋外空間から商業施設、オフィス、ホテル、病院などの屋内空間まで。パブリックアートは、誰でもいつでも鑑賞できるアートばかりではなく、限られた人々が利用する施設内の共用空間に展示されるアートも含まれます。

企業や自治体がアートを設置するのはなぜですか?

大都市では経済性と合理性を追求してきた鉄とガラスの四角い箱型の建築が建ち並んでいます。一般市民にとっては、各々の建築デザインの違いを認識することは大変困難なことだと思います。あのアートがある建物として覚えている場所も多いのではないでしょうか。企業や自治体は、そのヴィジョンやミッションをアートを通して発信することが可能です。人々にその街や建物を覚えてもらい、アイデンティティを感じてもらうことができるのです。ここでは私が考えるパブリックアートがもたらす7つの力をまとめてみました。

パブリックアートがもたらす7つの力

1

「アートのある街」― 街のシンボルとして認知度を高める

アイコニックなアートは街のシンボルとなり、観光名所やフォト・スポットになるなど広く長く人々に愛され、「あの『鹿(のオブジェ)』がいる街」というように、街の認知度を高めてくれます。

2

「アートの前で待ち合わせしよう!」― 街のランドマークとして機能する

商業エリアやホテルの起点、動線が交差する結節点など都市の拠点に設置することで、人々が集い、待ち合わせや位置確認の機能として働いてくれます。

3

「アートがあるステキな街」― 街のブランディングに寄与し、街と都市全体の価値を高める

街のコンセプトやヴィジョンを表象した作品は、働く、住む、訪れる人々にとって特別な街としての印象を与え、その波及効果によって都市全体の価値を高めてくれます。

4

「アートをめぐるいつもの散歩コース」― 癒しの時間と空間を生み出す

風の動き、雲の流れ、空の光などと呼応したり、自然や生命の息吹を感じさせる作品は、緑豊かな庭園や芝生広場などを背景に、季節の変化が楽しめる憩いの空間を創出し、人々に癒しの時間と空間をもたらしてくれます。

5

「アートとともに暮らす/働くこの街が好き」― 暮らしのステータスを豊かにする

作品が醸しだす造形美と豊な自然美のコントラストは、人々に自然環境への関心を誘い、シビックプライド(街への愛情意識)の向上を促し、居住環境としての街のステータスを高めてくれます。

6

「アートと過ごす楽しい時間」― 人々と作品の関わりから、アトラクティブな時間が生まれる

親子・家族が遊べるプレイランド/親子・家族が遊べるプレイランド/アトラクションとして機能するインタラクティブな作品は、環境にアクセントを加えるとともに、人々の、特に子どもたちの笑顔と楽しい時間をつくってくれます。

7

「私の街のアート、カワイイんです!」― 作品がキャラクターとして人気を集める

動物をモチーフにした作品などマスコットとしての展開を見込める可愛らしいキャラクターは地域の人気スポット・フォトスポットとして話題や注目を集めグッズ展開などのビジネス展開も期待されます。

どうやって楽しめばいいですか?触ってもいいの? パブリックアートを楽しむコツ、おすすめの鑑賞方法があれば教えてください

作品は広場や庭、建築との関係を考え風景と調和するように選ばれています。また、中には、その地域の歴史を反映した作品も選ばれることが多いです。美術館のように作品だけに集中して鑑賞するだけではなく、作品と周辺の環境や歴史、地域性との対比や関係性に想像を膨らませるとより楽しめると思います。
屋外に展示されている多くの立体作品は触られることも想定して制作されています。安全性は十分に考慮されていますが、登ったりすることは危険なのでやめてほしいですね。

ふつう、美術館は写真撮影NGですよね。パブリックアートは自由に写真に撮ったり、SNSに投稿してもいいの?

公共性の高い公開空地や広場や公園など屋外に設置されているアートの写真撮影については、建物や橋、碑と同じと考え、風景写真の一部として撮影する場合はSNSへの投稿もOKです。東京ガーデンテラス紀尾井町のパブリックアートは、建物や緑とアートを一緒に撮影すると映えるように計画しています。例えば、大巻さんの「Echoes Infinity ~Immortal Flowers~」とタワー、名和晃平さんの「White Deer」と旧李王邸が一緒に映るアングルを探してみるのも面白いですよ。

東京ガーデンテラス紀尾井町のパブリックアートについて見どころを教えてください

東京ガーデンテラス紀尾井町のパブリックアートは、私が森美術館在籍時にアートコンサルタントとして、設計の段階から関わらせて頂きました。いま大都市の再開発において、パブリックアートは欠かせないものとなっていますが、多くの計画では、設計が概ね完了する頃からアート計画に取り掛かかるため、アートの重量や大きさなどに多くの制限が課され、自由な発想で作品を選定することができません。
しかし、ここ東京ガーデンテラス紀尾井町では設計段階から建築家、ランドスケープデザイナーとともに、ここに相応しい作品のボリュームやコンセプトを議論し、ここに相応しい大きさのアートを最適な場所に配置できるように詳細な検討が行われました。例えば紀尾井町通りに面した「花の広場」に聳える大巻伸嗣さんの「Echoes Infinity ~Immortal Flowers~」は約9トン※もありますが、その荷重に耐えられる基礎を地中に造れるよう地下インフラの設計を変更もできたのです。

※作品重量 約12トン(基礎含 アート約8,710kg+基礎3,250kg)

コンセプトは「時×人×緑~紀尾井町の時と人と緑をつなぐ~」

江戸城下の風情を残す緑豊かな「東京・紀尾井町」。紀伊徳川家、尾張徳川家、彦根井伊家の藩邸が立ち並ぶ江戸時代より、要人が居を構える政治の中心地として栄えてきた場所です。
「脈々と受け継がれてきたこの“紀尾井町”の営みを未来に繋げたい」という開発時のコンセプトを、アートを通じて表現しています。

大巻伸嗣さんは花がもつ儚さや軽やかな風の動きを視覚化するインスタレーションで知られています。ギャラリーの床一面にカラフルな粉末で描いた花々が会期中に鑑賞者が足を踏み入れることで変化し、儚く散ってゆく作品は、大巻さんの初期の代表作ですが、時と人と自然のうつろいを感じさせてくれ、この街のコンセプトそのものでした。ここでは、江戸の花文様をモチーフにした大きな花束「Echoes Infinity ~Immortal Flowers~」を創ってくれました。ここに江戸の華やかな文化が受け継がれていることを象徴しています。作品の検討に際しては、弁慶橋からこの街へ近づいてくるときの高揚感を訪れる人に与えられるよう大きさや配置を意識し、また、春はお濠の桜とともに作品を楽しめるようにお濠沿いの小道にも小さな花の作品を展示しています。

名和晃平さんは、泡が雲のように時間と共にそのフォルムが変化する作品や鹿の剥製を透明な玉で覆った作品、液体などこれまで彫刻の世界では扱われることのなかった素材を用いた作品など、彫刻の可能性を拓く斬新な作品を発表してきた国際的に活躍されているアーティストです。戦前、日本の皇族であった李王家の旧邸宅の前に鹿の彫刻を展示したのは、古から皇室を守ってきた神獣である鹿が相応しいと考えたからです。
この旧李王邸は、戦後進駐軍の接収返還を経て、赤坂プリンスホテルとして再生しました。プリンスと名付けられた皇室由来の建築とアートのコントラストをお楽しみください。

このようにアートは置いてある場所にも意味があり、その読み解く楽しみも与えてくれるのです。
他にも紀尾井町の地形・高低差を生かして、回遊が楽しめるように数々の作品が点在しています。
アートを楽しむコツは、「まずは無心で観て感じてから、時に自由に、時に深く読み解く」
そして、何故この作品がここにあるのか、この作品を創ったアーティストはどんな人なのかなど少しだけ掘り下げてみると新しい発見があるかもしれません。
東京ガーデンテラス紀尾井町ではこれからもアートを通したタウンマネジメントに取り組み、アートとライフスタイルの新しいカタチを提案したいと考えています。
アート散歩ができる街、東京ガーデンテラス紀尾井町でのひとときをお楽しみください。

前田 尚武Maeda Naotake

一級建築士/学芸員
京都市京セラ美術館 企画推進ディレクター
法政大学非常勤講師

1970年東京生まれ。1992年早稲田大学理工学部建築学科卒業、1994年同大学院修士課程修了。1998年から六本木ヒルズの設計に従事し、2003年より2018年まで森美術館に在籍。現代美術を中心とした50展以上の展覧会の展示デザインを手がける。また、「メタボリズムの未来都市」展(2011年)、「建築の日本」展など建築展を企画するほか、国内外の美術館・博物館、パブリックアート等のコンサルティング、設計に携わる。2019年京都市京セラ美術館に移籍、「モダン建築の京都」展(2021年)を企画。2019年度日本建築学会文化賞(一連の建築展企画)、日本空間デザイン賞2021博物館・文化空間部門金賞(富岡製糸場西置繭所)ほか受賞。京都モダン建築祭実行委員、環境芸術学会理事などを務める。

写真:前田 尚武